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大阪高等裁判所 昭和54年(く)103号 決定

少年 N・G(昭三八・一一・六生)

右少年に対する業務上過失傷害、道路交通法違反、犯人隠避教唆保護事件について、昭和五四年八月二一日大阪家庭裁判所堺支部がした初等少年院送致決定に対し、法定代理人親権者父の代理人弁護士○○○○から抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、弁護士○○○○作成の抗告状記載のとおりであるから、これを引用するが、要するに、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

論旨に対する判断に先立ち、まず職権により本件抗告の適否について検討するのに、記録によれば、頭書保護事件につき原審は昭和五四年八月二一日少年を初等少年院に送致する旨の決定をしたこと、これに対し少年の法定代理人親権者父N・Tが同月二八日弁護士○○○○を附添人に選任し、同弁護士から同日抗告の申立があつたことが認められるが、少年法三二条一項によれば、保護処分決定に対する抗告権者は少年、法定代理人、附添人に限られているところ、附添人というのは原審における附添人、つまり原審の保護処分決定時すでに選任されている附添人に限られ、保護処分決定後に選任された附添人は抗告権者に含まれないと解すべきであり、これを本件についてみると、弁護士○○○○は保護処分決定時には附添人に選任されておらず、右決定後に選任されたものであるから、附添人としては適法な抗告権者にあたらないというべきである。しかし、附添人としての抗告が許されない場合であつても、その附添人を選任した者が抗告権を有する少年又は法定代理人である場合には、その附添人のした抗告は抗告権者たる少年又は法定代理人の任意代理人としてした抗告と解することができるのであるが、本件の場合、少年には法定代理人親権者として父母がおり、父母共同して親権を行使できない事情は認められないのに、前示のとおり親権者父だけが附添人を選任しているのであるから、法定代理人たる親権者による抗告としては不適法である。親権者母N・Y子は抗告期間を過ぎた昭和五四年九月二七日に当裁判所に前示弁護士を附添人とする旨の附添人選任届(ただし、昭和五四年八月二八日付のもの)を提出したが、抗告期間経過後に右のごとき選任届を提出しても親権者としての抗告が適法となるものではない。よつて、本件抗告は不適法として棄却を免れない。

なお、念のため、実体について本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するのに、少年は、ボンド吸入の事実により昭和五三年七月七日保護観察に付されたのに、それから二か月余りで本件各非行を犯したものであるが、原裁判所は少年が中学卒業を機会に素行を改めることを期待して本件について在宅試験観察にしたものの、少年の素行は一向に改まらないばかりでなく、少年非行の一因ともなつている保護者の生活態度等保護環境も改善された形跡がなく、もはや在宅での更生は困難となつたと認められるので、本件各非行は中学在学当時のものであるうえ必ずしも重大事案であるとはいえないけれども、少年に対する要保護性が強く、少年の性格、これまでの行状、保護環境などに徴すると、この際少年を施設に収容して矯正教育を施すのもやむをえないものと思料されるので、少年を初等少年院(一般短期処遇)に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。

よつて、少年法三三条一項前段、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 兒島武雄 裁判官 角敬 角田進)

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